CDT EP7 健気な一歩を重ねる

 

 

 

9月中旬。

コロラドセクションに入ってからそろそろ2週間が経とうとしている。

 

3000mを越える山々は夏の終わりを感じているのか、まさに紅葉の準備を進めているようだ。

 

 

日照時間も日に日に短くなり、歩き始めた7月のモンタナ州は、夜の10時半まで日が続いていたのに対して、9月に入ってからは7時を過ぎると山の中は薄暗くなり8時には星が輝き出す。

 

 

そんなコロラド州は標高も高く3000m以上の高地を歩き、時には4000mを越える峠を越えなければならない。

 

 

峠を越えてはまた降り、降り切ったら次の峠を登り始める。

 

 

その分、森林限界を越えることが多く、展望は今まで歩いてきたどのセクションよりも壮大で美しく感動的な景色が眼下に広がる。

 

 

そして、歩き始めて70日目、カナダ国境から3000km地点を通過したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、なぜか歩く気力が出てこない日々が続いている。カメラのシャッターを切る事もかなり減ってしまった。景色に感動していないわけではないが、何故かそうなってしまっている。

 

 

 

 

それは、

天気が良くないからなのか

辛いアップダウンが多いからなのか

メキシコの国境があまりにも遠く感じてしまうからなのか

それとも歩くのに飽きてきたのか

 

理由は全くわからない。

 

 

 

 

毎回踏みしめる一歩はアメリカを縦断する距離を意識してしまうと、限りなく無力で惨めなものに思えてしまう。

 

それはまるで米俵の米粒を一つ一つ数えていくようなものかもしれない。

 

 

毎朝、テントをたたみ終える頃、早く日が暮れてくれないかな。っと願ってしまう自分がいる。

 

 

 

 

2ヶ月以上歩いてきた体は、5時半には食事を始め、6時半には歩く準備が整い、いつでもいけるぞ!と僕に声をかけてくる。

 

 

僕の弱った心には気にも留めず、体は毎日一定のリズムで活動し今日もいつもと同じように歩こうとしている。

 

「仕方ない。ついていくか」

 

と心が体に引っ張られるように歩き始める。

心と体がまるで別の2つのものに離れてしまったようだ。

 

 

 

 

 

いっそのこと、どうしてもCDTを辞めざるを得ない事件でも起きないものかと思ってしまう。

 

とは言え、人生を揺るがすような大事件が起こらない限り歩く事は辞めないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前、フリッパーという40代のハイカーと出会った。

彼はハイカー特有のオープンマイドとユーモアを持ち合わせ、これまで数々のトレルイを歩いてきた実績が物語るオーラを身にまとうハイカーだった。

 

CDTが終わったらどうするの?」

 

こんな話はハイカー同士でよくする会話の代表例だ。

大概の答えは、

 

I dont know

Who knows

 

と返ってくることが多い。

皆終わってからのことを考えながら歩いているのだろう。

 

 

その答えが出ないままゴールを迎えたハイカー達は、次のトレイルへ向かっているようにも見える。

 

もしかすると、僕もその中の一人なのかもしれない。

 

 

 

 

 

そしてフリッパーの答えは、

 

「もう一度CDTを歩くよ!今度はメキシコスタートかな!」

 

ほんと歩くのが好きだね。と返すと、彼はニヤニヤしながら話を続けた。

 

なんと彼は、もう一度CDTを歩き終えるとトリプルトリプルクラウンなんだ!と嬉しそうに答える。

 

 

 

 

トリプルトリプルクラウンとは、、、

僕がこれまで歩いてきたPCTAT、そして今歩いているCDTを合わせた3本のトレイルを合わせてアメリカ3大トレイルと呼ばれ、その3つを歩き切ることをトリプルクラウンという。いわゆる三冠王みたいなものだ。

 

日本では全く通用しない話ではあるが、アメリカのロングトレイルを歩くハイカーなら、一度は夢見る事だと思う。

 

 

そして、彼の言うトリプルトリプルクラウンはその3本を3回ずつ歩く事を意味する。

 

その総距離は38000kmにも及ぶ。

 

Crazy、、、

 

としか言いようがない。

 

 

 

 

 

 

なんでそんなに歩くの?

と質問をして返ってきた答えは、

 

FUN!!!

 

の一言だった。

 

 

 

 

 

 

心が弱っている今の僕にとってその言葉は、顔面にパイをぶつけられるようなダメージを与えた。

 

 

確かに僕が歩いているのは、「楽しいから」ではある。お金をもらって仕事として歩いているわけではない。お金と時間を使い楽しいものだと思い歩いてきた。

 

だが、やはり道のりは長く辛いものでもある。

雨の辛さ

雷の恐怖

太陽の暑さ

夜の寒さ

喉の渇き

肉体の疲労

孤独感

 

そんなものは常につきまとう。それでも、そんなものよりもはるかに心を動かされる瞬間や出会いがあるから、また次の一歩を踏み出せるわけだ。

 

 

 

 

 

だが今の僕には彼の笑顔が眩しく、直視することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い返してみれば、PCTでもATでも同じような心境になったことはあった。

 

 

そんな時いつも思い出す言葉がある。

 

「どんなに辛くても、その瞬間は人生の長さと比べるとチーズのかけらみたいなもんだよ」

 

これはPCTを歩いた2年前の20176月、大雪が降ったシエラにいよいよ入ろうという時、カナダのハイカーパトリックがかけてくれた言葉だ。

 

 

 

 

 

確かにその通りだ。

 

といつも言い聞かせて自分を励まし、

時には体に心を引っ張ってもらい

時には心が体を勇気付け

自分の中でなんとかバランスを保つようにしている。

 

 

 

 

 

そう、ただのチーズのかけらだ。

そして、僕はこの素晴らしく美しいロッキー山脈を歩きCDTの真上に立っている。

とにかく、無力で惨めな一歩かもしれないが、健気にその一歩を重ねるとしよう。

 

 

 

 

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